後天性相貌失認 — ある日を境に顔がわからなくなる
後天性(獲得性)相貌失認は、それまで問題なく人の顔を識別できていた人が、脳卒中、頭部外傷、脳腫瘍、脳炎などをきっかけに、顔の識別が難しくなるものです。原因となる病気やけがの発症時期がはっきりしていることが多く、本人や周囲も「以前とは違う」という変化に気づきやすい傾向があります。
脳のなかでも、側頭葉の紡錘状回(ぼうすいじょうかい)を含む領域の働きが関係していると考えられています。紡錘状回は、耳の下あたりにある脳の内側の部位で、顔をひとつのまとまりとして処理することに深く関わっているとされます。この部位を含む領域が損傷を受けると、目や鼻、口といったパーツは見えていても、それを「誰の顔か」として結びつけることが難しくなることがあります。
急に顔がわからなくなった場合
発達性相貌失認 — 幼少期から続く顔の識別の難しさ
発達性相貌失認は、事故や病気など明確なきっかけがないまま、幼い頃から一貫して顔の識別が苦手な状態です。先天的、あるいは遺伝的な要因が関わっている可能性が指摘されており、家族内で似たような困りごとがみられる例が報告されていますが、原因がすべて解明されているわけではありません。
本人にとっては、顔を覚えにくいことが物心ついたときからの「ふつう」であるため、自分の顔認識の難しさが一般的でないと気づかないまま大人になる人も少なくありません。周囲との違いに気づくきっかけは、進学や就職で新しい人間関係が急に増えたときや、家族や友人から指摘されたときなど、人によってさまざまです。
2つのタイプを分けて考える理由
後天性か発達性かを分けて考えるのは、背景にある原因や、必要な対応の考え方が異なるためです。後天性相貌失認では、原因となった脳の病気やけがそのものへの医療的な対応が優先されることがあります。一方、発達性相貌失認では、原因となる病気を治療するというより、顔以外の手がかりを活用しながら生活上の困難を減らしていく関わり方が中心になります。
ただし、どちらのタイプも、困る場面や程度には個人差があり、一律に「このタイプだからこう」と決められるわけではありません。いつから、どのような場面で困っているかを振り返ることが、自分や身近な人の状態を理解する手がかりになります。
参考文献・情報源
以下の著者名・機関名は、掲載内容の出典を示すものです。本記事の監修・推薦を受けたことを意味しません。
- 01Faceblind.org — About prosopagnosia
後天性・発達性それぞれの相貌失認の特徴を紹介するポータルサイト。
- 02NHS — Face blindness (prosopagnosia)
相貌失認の原因を後天性・発達性に分けて解説。
本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別の診断や治療に代わるものではありません。サイト全体の文献一覧は参考文献ページをご覧ください。