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なぜ顔だけ覚えられないの?脳のしくみを見てみる

道や物の形は覚えられるのに、なぜ顔だけがこんなに覚えにくいのだろう――そう感じたことはありませんか。実は脳のなかには、顔の処理を専門的に担っていると考えられている領域があり、そこの働き方の違いが、顔の覚えやすさ・覚えにくさに関わっていると考えられています。

顔は「特別扱い」されている

私たちは日常のなかで、椅子や道路標識のような物を見分けるのと、人の顔を見分けるのとで、同じ視覚の仕組みを使っているように感じるかもしれません。しかし研究では、顔の処理には、物体全般の処理とは一部異なる、専用性の高い脳内の仕組みが関わっていると考えられています。

これは、顔が生活のなかで極めて重要な情報源であることと関係していると考えられます。誰の顔か、どんな表情か、どこを見ているかといった情報は、対人関係を築くうえで欠かせません。そのため脳は、顔の処理に特化したネットワークを発達させてきたのではないか、という見方があります。

紡錘状回 — 顔処理の中心とされる部位

顔の処理に関わる領域のなかでも、とくによく取り上げられるのが「紡錘状回(ぼうすいじょうかい、fusiform gyrus)」です。側頭葉の下面、耳の下あたりにあたる脳の内側に位置する部位で、なかでも「紡錘状顔領域」と呼ばれる部分は、顔を見たときに強く活動することが多くの研究で示されています。

紡錘状回は、目・鼻・口といった顔のパーツを個別に処理するのではなく、それらの配置や全体的なまとまりを一度に処理する働きに関わっていると考えられています。この「顔をひとつのまとまりとして捉える」処理がうまく働かないと、パーツは見えていても、それが誰の顔かを判断することが難しくなる場合があると考えられています。

後頭葉から側頭葉へ、段階を追って処理される

顔の情報は、一か所だけで処理されるのではなく、後頭葉から側頭葉にかけて広がるいくつかの領域が連携して処理していると考えられています。後頭葉の顔関連領域では、目鼻の配置など比較的初期の視覚的な特徴が処理され、そこから側頭葉の紡錘状回などへ情報が伝わり、「誰の顔か」というより高度な識別につながっていく、という流れが想定されています。

さらに、表情の変化や視線の動きといった情報は、これとは別の経路でも処理されていると考えられており、「誰か」を認識する処理と「どんな表情か」を読み取る処理は、ある程度分かれて進んでいる可能性が指摘されています。

右半球が優位とされる理由

顔の処理には、左右の脳のうち右半球がより強く関わっていると考えられています。後天性相貌失認の症例研究では、右側の側頭葉や後頭葉を中心とした損傷で症状が生じることが比較的多く報告されており、このことも右半球優位という考え方を支持する材料の一つとされています。

ただし、実際には両側の脳が関わっているとする報告もあり、必ずしも右側だけの問題とは言い切れません。顔処理のネットワークがどちらの半球でどの程度分担されているかは、現在も研究が続いているテーマです。

発達性相貌失認と脳のネットワーク

発達性相貌失認では、後天性の場合のようなはっきりとした脳の損傷が見当たらないことも多く、紡錘状回を含む顔処理ネットワークの働き方や結びつき方に、生まれつき、あるいは発達の過程でなんらかの違いがあるのではないかと考えられています。脳画像研究では、顔を見たときの紡錘状回の活動の程度や、領域同士のつながり方に違いがみられるという報告もありますが、原因やメカニズムのすべてが解明されているわけではありません。

脳のしくみの理解はまだ発展途上です

ここで紹介した紡錘状回や顔処理ネットワークの働きは、現時点の研究にもとづく代表的な考え方であり、確定した結論ではありません。今後の研究によって、理解が更新されていく可能性があります。

参考文献・情報源

以下の著者名・機関名は、掲載内容の出典を示すものです。本記事の監修・推薦を受けたことを意味しません。

  1. 01
    Prosopagnosia: face blindness and its association with neurological disorders (PMC)

    紡錘状回を含む顔処理ネットワークと相貌失認の関係を整理したレビュー論文。

  2. 02
    Prosopagnosia — StatPearls (NCBI Bookshelf)

    相貌失認の神経基盤や後頭・側頭領域の役割を概説。

本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別の診断や治療に代わるものではありません。サイト全体の文献一覧は参考文献ページをご覧ください。